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マゴスへのメッセージ  第1回 「庭と生きる。」 映画作家 大林宣彦
Chapter1
社長: ぼくたちは、エクステリアという分野で、「住環境を創造する」仕事をしてきましたが、本当に大切なのは、環境をクリエイトすることより、「環境と調和すること」「うつくしい風景を残していくこと」ではないかと想うようになりました。
そこで、弊社のカタログを作成するにあたって、大林監督のお話を伺いに参りました。

監督: 「マゴス」とはどういう意味ですか?

社長: 「魔法使い」という意味です。
ぼくたちの言う魔法とは、懐かしき原風景を取り戻すこと。小さな頃は、誰でもお菓子の家に住みたいとか、屋根裏部屋に魔法のランプがないかなとか、そんな夢があったかと思います。夢は大人になるにつれ、より現実的な憧れになり、人生における重要な買い物である家や庭に具現化される。
そんな夢や憧れの原風景を残していきたい、そんな想いから生まれたブランド名です。
自然のままの姿にふれたとき、「なつかしさ」は生まれる。
社長: 大林監督作品の代表的な舞台である尾道をはじめ、「異人たちとの夏」の浅草、「はるか、ノスタルジィ」の小樽など、映画を観た当時のぼくには実際に訪れたことのない場所ばかりでしたが、映画の中の風景には、どこか懐かしさを覚えました。監督は、"映像の魔術師"とよく言われますが、この不思議な感覚を作るヒントを教えていただけますか?

監督: "懐かしさ"とは、"ほっとする"ということなんです。知っているということではない。自然のままの姿にふれたとき、"ほっとする"、安らぎを覚える、その気持ちを称して、僕たちは"懐かしい"と呼んでるんです。
だから、お年寄りが昔あったものを見て、懐かしいというだけが懐かしさじゃなくて、生まれたばかりの子どもでも、あなたのように尾道や小樽、浅草を知らない人が、僕の映画を観て懐かしいと思うのも、昔知ってたから懐かしいんじゃなくて、何かほっとするものがそこにある。そういうことを、懐かしさだと感じるわけです。

だから、僕は、"懐かしい"ということは、とっても大事だと思うんです。
昔よかったものは今もいい、明日にも役に立つはずだと言ってね、僕は古い町を愛して映画を作ってきたけど、それは、決して老人の懐古趣味のノスタルジーじゃなくて、人間が生きていく中で、"ほっとする"という一番自然界に近いものを守り続けていかなきゃならんということなんです。
だから、僕の映画は、"まちおこし"ではなくて、"まちまもり"。あるいは、"まちのこし"なんです。
尾道の町で映画を作って、その結果たくさんの人が来るようになる。すると、すぐに町は記念碑を作ろうとか、道を拡げようとか、桜の木を切ってバス停を作ろうとか言うんですよ。僕は、「そういうことをするのなら、映画は作らんぞ」と。だから、僕の自慢は、尾道に映画の記念碑が1つもない、ということなんですよ。そういうものを作ることから、町は壊れていくわけで、記念碑というなら、スクリーンを見て観客の心に残るものが記念碑ですよ。尾道に来て、「あっ、ここが転校生の撮影場所か」と思って懐かしさを感じようと思 ったら、そこに転校生ロケ記念碑なんてものがあったら、一番邪魔でしょ。それだけじゃなくてね、あとの若い映画作家が、「転校生」の撮影場所で新しい映画を作ろうと思ってやって来て、ロケ記念碑なんてあったら、もう撮れないですよ。だから、僕の映画のロケセットは残さなかった。けれども、大勢の人が来てくれる。
僕の映画は、30年たっても、原田知世が結婚したというだけで、結婚記念にファンが尾道に来て、尾道を歩いてくれるということは、文化だと思うんです。やはり芸術というのは文化ですから。尾道の光景は、映画を観た人の中に、記憶として残りますからね。
自然のまま、"ほっとするもの"を守り続ける、これこそが大切なんです。
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