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マゴスへのメッセージ  最終回 「庭と生きる。」 映画作家 大林宣彦
Chapter1
貯金箱に心を貯めていきたい。
社長: ぼくたちマゴスも、"温故知新"というテーマを大切にしていきたいと想っています。 そういう中で、大それた意味ではなくて、自分たちの役割とは、その一部分を担っていると自負をもってやってきたんです。 本日お話をうかがって、もっともっと大切なことなんだと、再確認いたしました。

監督: まだ、若いんだから、信念のままに挑戦したらよいと思うよ。
僕が、尾道の映画を撮ってたころなんてね、プロの友人やプロデューサー達はみんな、「そんな映画撮ったって、誰も見ないよ」と言いましたよ。 「今どき、おさげ髪した女の子たちが姿勢正して、"こんにちは"、 "ごめんなさい"、そんな映画誰が見るんだって」と、ずっと言われ続けたんだけど、僕は頑固にそれを作ってきたのね。
だけど、僕の映画は批評家に褒められるよりも、ファンがついてきてくれて、映画館に客がくる。 ビデオ出したら、やたら売れちゃうと。 だから続いてきたわけで、それは結局ファンが支えてくれたんです。 尾道だって、そういう人たちが来てくれる。

そうすると、町はすぐに桜の木を切ってバスを通そうとするから、行政の人とはよく喧嘩したもんですよ。 僕の映画の手伝いをした市役所の職員には、所内で不遇な思いをさせちゃったこともありました。 せっかく映画を作ってくれたのに、何の商売にもならんじゃないかって、ずっと言われてきたんだけど、商売にしたらこの町は終わるからって、僕は頑固にそれでやってきた。 若いからできたってこともあるし、それが大事だからってやってきたし。 ただ、信じるべきファンがついてきてくれる。 だから、観客は必ずついてきてくれますよ。 そういう時代に今、間違いなくなってきている。

小泉さんがなぜ異常人気だったんだろうと考えると、小泉さんの言語って、全部、明治語なんですよ。 あるいは、明治維新前の日本語。それにみんなが、本能が応えただけなんですよ。 "痛みをともなう"なんて、政治家が決して言わない言葉だったわけでしょ。 でも、小泉さんが"痛みをともなう"って言ったとたん、「そうだなぁ、我慢しなきゃご褒美もらえなかったよなぁ、ちょっと痛みともなってみようか」と。 だから、あの人の政治的実績は僕は語りませんが、言語の天才でしたね。 あの異常人気はね、小泉論じゃなくて、国民が何を求めてるかってことだったんですよ。

監督: ある側面では、困った言葉であった、"スローライフ"とか"オンリーワン"とか"温故知新"という言葉がこれだけ定着しちゃったってのは、それまでの政治界の考えとは、ちょっとちがった国民になってるってことですよ。 それこそ、文化の人になっちゃってるわけ。 ということは、僕たちの本能が、そういう言語をもういっぺん呼び戻しちゃってるんですよ。 だから、オピニオンリーダーがそういう本能を明確な言語にして、「なぜオンリーワンなの?」、「なぜナンバーワンじゃないの?」ってことを語っていってあげることは、とても大事なことなんですよね。

まぁ、高度経済成長にはつながらないかもしれないけども、スロー経済になる。 これからの日本は、やっぱりスロー経済にしていかなきゃだめだと思うね。 貯金箱に10円玉が少しずつ貯まって、1,000円になる喜び、それが人間の喜びでしょ。 で、それで暮らせるんだもんね。暮らしていけるんだもん。
そういう幸福感を、もういっぺん取り戻さないとね。
ということに、きみたちの仕事や事業が役立ってほしいなと思います。

社長: ぼくたちも、監督の映画のように、まごころを育てられるうような、まごころを取り戻せるような、そんな生活のお手伝いができればよいなと思っています。 いろいろと勉強させていただいて、ありがとうございました。
いただきました貴重なおことばを糧にして、一生懸命がんばります。ありがとうございました。

監督: 僕も映画のほうで。映画がそういうことだと思って、やってますから。


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